理事長あいさつ

2018年 年頭所感(日本小児救急医学会理事長挨拶)

長村敏生

新年明けましておめでとうございます。日頃より日本小児救急医学会の活動をご支援いただいている会員の皆様には深謝申し上げます。

さて、現在の医療は一つの施設だけで全ての治療を完結するのではなく、診療所・かかりつけ医⇒急性期の病院⇒慢性期の病院⇒在宅・リハビリ医療、介護サービスまでが連携して、地域全体で切れ目のない完結医療を目指すという「地域包括ケアシステム」の考え方が主流となっています。その背景にあるのは急速に進行する少子高齢化という社会の大きな変化であり、その変化に対応するためには医療も病院完結型から地域完結型へ移行していく必要があるという考え方です。そして、小児救急医療提供体制に関しては、既に平成14(2002)年以降、上記の考えを先取りするような形で、「広域化、集約化」という基本方針が提唱されてきたことは皆様方ご存知の通りです。

しかし、小児救急医療の地域包括ケアシステムを考えた場合、前述の成人(特に高齢者)を想定した考え方では決定的に抜け落ちている点があります。それは、子どもが自身の独自の判断下に、自身の力(裁量)で救急受診することはできず、保護者に連れて行ってもらわなければならない点です。従って、小児救急医療における地域包括ケアシステムとは、保護者⇒初期救急医療機関⇒2次・3次救急医療機関⇒リハビリ・療育施設、在宅医療という役割分担の中で切れ目のない連携を構築することが必要になってきます。

そこで、日本小児救急医学会としては、地域に密着した形で家庭の保護者を支援する活動にも力を入れていきたいと考えています。子どもの事故(傷害)については保護者が知識を持って予防対策を実践することが有効ですが、子どもの急病ということになると、保護者は医療者ではないので、子どもの病気の診断や治療の知識を高めることを目指してもあまり実際的とは言えません。子どもの急病に関して家庭の保護者を支援するために重要なポイントは3つあると私は考えています。1つ目は子どもの状態を把握して評できる観察眼を養うこと、2つ目は今すぐに救急受診をするべきかどうかを自己判断できる基準をもってもらうこと、3つ目は子どもの状態は時々刻々と変化していくので経時変化をふまえた段階的評価をしてもらうことです。今後、これら保護者への支援活動の有効性を検証していきたいと思います。

小児救急診療における重症患者は5%未満といわれるように小児救急重篤疾患は頻度がまれであるため、単独の施設において自験症例のデータのみで該当疾患の全体的な臨床的特徴を明らかにすることは困難です。一方で、本邦の小児救急重篤疾患の全国的なデータベースは未整備な状況にあり、診療方針やガイドラインの策定にあたっては諸外国の報告を参考に決定せざるを得ないのが現状です。しかしながら、人種も医療事情も異なる他国の知見をそのままわが国の診療に導入することには無理があり、わが国独自の疾患データベースは未だ確立されていません。

そこで、本学会の調査研究委員会では2017年1月1日より5年間の予定で、小児救急重篤疾患登録調査を開始しました。参加協力表明施設は全国の小児科中核病院、地域小児科センター、救命救急センター計363施設で、登録対象は小児救急における15歳未満の死亡例、新たに人工換気療法を実施された症例、化膿性髄膜炎症例、新たに虐待が疑われた入院症例の4疾患です。個人が特定できない匿名化情報の形で登録いただいた情報は2018年1月15日現在、27施設、  330症例に上ります。その詳細につきましては学術集会、学会雑誌などを通して今後報告していく予定です。

先の理事長就任の挨拶でも述べたように、小児救急医療提供体制には全国津々浦々の地方から都市まで厳然たる地域差が存在します。この地域差は一般会員、代議員の分布についても例外ではありません。そして、将来的に小児救急医学の学問的体系化を目指すためには、これら地域差の解消は極めて重要な課題であります。幸い、本学会には小児救急教育セミナー、小児脳死判定セミナー、災害医療研修会など有用な教育コースのコンテンツが充実しており、これらのセミナーが各地で積極的に開催されることにより、多くの方の小児救急医療への関心と興味が深まり、さらなる会員の獲得と学会の発展に繋がっていくことを期待したいと思います。

日本小児救急医学会は今後も「少子高齢化時代の子育て支援を応援する学会」として多彩な活動を展開していきたいと考えております。会員の皆様には本学会の活動へのより一層のご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。


日本小児救急医学会理事長就任の挨拶

この度日本小児救急医学会理事長を拝命いたしましたので、ご挨拶申し上げます。計17年間にわたり本学会を牽引していただき、本学会の代名詞というべき市川光太郎先生の後任ということで、双肩にかかる重責は言葉に尽くせないものがありますが、微力ながら尽力する所存ですので会員の皆様どうぞよろしくお願い申し上げます。

私の京都第二赤十字病院における恩師である水田隆三先生が本学会の創設メンバーの一人であった縁で、私自身も25年以上本学会にお世話になってきました。そして、市川前理事長をはじめ多くの先生からご指導いただいたことは、「本学会の会員は小児科、小児外科、麻酔・集中治療科、救急科、脳外科、整形外科、形成外科、看護師、救急隊員など多領域のメンバーで構成されているが、会員の主要なメンバーは領域を問わず、全国津々浦々の病院あるいは診療所の臨床現場で、昼夜を問わず小児の救急医療に携わっている人々である」ことを忘れてはならないということでした。従って、この学会の存在意義は小児救急診療の現場で頑張る会員の声を汲み上げ、その意見を代表する団体であるという点にあると私は考えています。

小児救急医療は1次から3次まで、内因性から外因性まで、あるいは急性疾患から慢性疾患・在宅障碍児の急性増悪までというように幅広い領域が対象になるだけではなく、医療提供体制にも地方から都市まで厳然たる地域差が存在します。しかし、我々の立場は小児の医療に救急という切り口で関与するという意味で共通しています。そして、そもそも小児の医療とは子どもに向き合い、保護者に寄り添うものでなければならず、子どもは保護者に育てられて大人に成長していくものですが、保護者の子育てにおける最大の不安は子どもの急病とケガであるということを考えると、子育て支援の推進にあたって小児救急医学会が果たすべき役割は極めて大きいと思われます。つまり、本学会は「少子高齢化時代の子育て支援を応援する学会」でありたいと私は考えています。

その上で、一次救急については小児科医会と連携して#8000および家庭看護力の向上を目指し、小児科学会とも連携して小児救急初期対応コースであるJPLSコースの普及に協力したいと思っています。また、1歳以上の死亡数が悪性新生物とほぼ同数の事故死亡を減少させるための子どもの事故防止対策は喫緊の重要課題です。一方、2次、3次救急については小児救急医が過労状態に陥らないような医療体制の確立が必要で、国や自治体など行政と連携して集約化、広域化により重篤小児に対する救急医療体制の整備が不可欠です。そのためには、それぞれの地域における重篤小児の実態調査結果に基づいて優先度を決め、地域ごとに最善の対応策を具体的に考えていくことが重要であると思っています。さらに、少子化の進行に逆行する虐待件数の増加に対しては日本子ども虐待学会との連携を、乳幼児の突然死の検証を含めたchild death reviewの推進には日本SIDS・乳幼児突然死予防学会との連携を、効果的な災害医療の推進には日本小児科学会との連携を進めていきたいと考えています。

従来の大学の医学部教育ではややもすれば軽視されがちであった小児救急医学の学問的体系化も今後の本学会に残された大きな課題であると認識しています。そのためには、小児救急重篤症例登録調査を通じたデータベースの整備、学会発のガイドラインの充実と改訂、教育コース(小児救急教育セミナー、小児脳死判定セミナー、災害医療研修会)の普及と新しい医療技術の導入、学会が監修する「ケースシナリオに学ぶ小児救急のストラテジー」の改訂と小児救急認定医制度の確立などが今後の具体的な活動目標となってくると考えており、そのための委員会活動の活性化を支援していきたいと考えています。

最後に、日本小児救急医学会の使命は医療としての問題点を細かく分析していく緻密な視点と、保護者の気持ちに寄り添って支えるという育児支援の視点を両立させた活動を推進していくことであり、それこそが小児救急医療の魅力であり、また原点であることを常に忘れずに全力を尽くしたいと考えています。どうか、本学会のさらなる発展のために、会員の先生方のこれまで以上のご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

長村敏生