理事長あいさつ

2019年 新年の挨拶~年頭所感~

長村敏生

会員の皆様、新年あけましておめでとうございます。

2018年の世相を表す「今年の漢字」に「災」が選ばれたように、昨年は2月の北陸地方での豪雪、夏季の異常な熱暑に加え、6月の大阪北部地震、7月の西日本豪雨、9月の台風21号、北海道胆振東部地震と度重なる自然の脅威に翻弄される1年でした。さらに、10月11日には前理事長の市川光太郎先生がご逝去され、当学会にとっては忘れることのできない平成最後の年になってしまいました。人生は全く不公平なものであり、人間は限りのある儚い存在であり、そして災害・事故は反復するという事実を改めて痛感するとともに、元号の改定という歴史の転換期を迎えて、鎮魂の思いからの時代の再生を願わずにはおれません。

さて、昨年を振り返りますと、日本小児救急医学会にとって災害救護は大きな活動分野の一つであることはいうまでもありませんが、災害が発生した時に十分に機能するためには平時からの準備が不可欠といえます。その意味で、災害医療委員会が開催する「小児医療従事者向け災害研修セミナー」は他学会からの開催依頼も多くあり、開催回数は2018年12月までに計11回に達しています。また、東日本大震災継続支援も「ほそくながく」継続中です。さらに、学会主催の教育セミナーである小児救急教育セミナー(計9回)、小児脳死判定セミナー(計8回)についても今後も継続開催していく予定です。

最近の日本小児救急医学会雑誌への投稿論文の増加はまさに右肩上がりで、ページ数の増加を実感されている会員の方も多いと思います。学会雑誌の掲載論文の増加は当学会が学術団体としても精力的に活動していることの表れであり、誇るべきことですが、それに伴う印刷代・郵送費の増加も看過できず、昨年10月より投稿規定を変更してオンライン投稿・査読システムを開始しました。多くの投稿論文に対して、論文のqualityを高めるべく、熱心かつ献身的に査読に協力していただいた先生方にはこの場を借りて改めて感謝申し上げます。

小児救急SI(special interest)メンバー制度が2017年12月10日から開始され、昨年2月には初年度として2002年度以前の入会者145名が認定されました。小児救急SIメンバー資格を希望される会員は毎年9月1日~10月末日に申請書類を提出することになっています。小児救急SIメンバーには認定書、メンバーカード、ピンバッジが送られますので、有資格者は是非申請していただき、学術集会にはピンバッジを付けて参加しましょう。

調査研究委員会ではわが国における小児救急重篤疾患のデータベース構築を目指して2017年1月1日より小児救急重篤疾患登録調査(Japan Registry System for Children with critical disease:JRSC)を開始しました。ちょうど2年が経過した2018年12月27日現在、48施設から822例の情報が登録されています(死亡症例〔CPAの外来死亡を含む〕179例、新たに人工換気療法を実施した症例682例、化膿性髄膜炎症例24例、新たに虐待が疑われた入院症例75例で、重複あり)。この中で、特に登録症例数が多かった死亡症例、人工換気療法実施症例については、日本小児科学会と合同(前者は子どもの死亡登録・検証委員会、後者は小児救急委員会)で2次調査を今春から開始する予定です。JRSCは5年間の予定ですが、途中からの参加も歓迎で、今後日本小児科学会との合同調査によりさらに症例数が増加するとともにより詳細な分析結果が情報提供できるのではないかと期待しています。

カナダの内科医であるウイリアム・オスラー博士の言葉に「医学は不確実性の科学であり、可能性の芸術である」の一節があります。これは不確実であるが故にエビデンスに基づく標準化医療を追及しなければいけないという戒めとともに、患者の個体差を配慮して個々の患者に寄り添う医療者の感性(アート)を尊重する心を忘れてはならないという医学の基本を示す洞察です。自分の状態を自身の言葉で正確に伝えられない子どもを診療対象とする小児医療においては常に座右の銘としたい言葉であり、医療の問題点を科学的に分析していく緻密な視点と患者・保護者に寄り添って支える育児支援の視点を両立させる診療こそ小児救急医療の魅力であり、原点であると私は考えています。

平成とともに逝かれた市川光太郎先生のご遺志を継承し、日本小児救急医学会は「少子高齢化時代の子育て支援を応援する学会」として今後も活動を多面的に発展させていきたいと思っています。会員の皆様にはさらなるご支援とご協力をお願いするとともに、皆様のこの1年のご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。


日本小児救急医学会理事長就任の挨拶

この度日本小児救急医学会理事長を拝命いたしましたので、ご挨拶申し上げます。計17年間にわたり本学会を牽引していただき、本学会の代名詞というべき市川光太郎先生の後任ということで、双肩にかかる重責は言葉に尽くせないものがありますが、微力ながら尽力する所存ですので会員の皆様どうぞよろしくお願い申し上げます。

私の京都第二赤十字病院における恩師である水田隆三先生が本学会の創設メンバーの一人であった縁で、私自身も25年以上本学会にお世話になってきました。そして、市川前理事長をはじめ多くの先生からご指導いただいたことは、「本学会の会員は小児科、小児外科、麻酔・集中治療科、救急科、脳外科、整形外科、形成外科、看護師、救急隊員など多領域のメンバーで構成されているが、会員の主要なメンバーは領域を問わず、全国津々浦々の病院あるいは診療所の臨床現場で、昼夜を問わず小児の救急医療に携わっている人々である」ことを忘れてはならないということでした。従って、この学会の存在意義は小児救急診療の現場で頑張る会員の声を汲み上げ、その意見を代表する団体であるという点にあると私は考えています。

小児救急医療は1次から3次まで、内因性から外因性まで、あるいは急性疾患から慢性疾患・在宅障碍児の急性増悪までというように幅広い領域が対象になるだけではなく、医療提供体制にも地方から都市まで厳然たる地域差が存在します。しかし、我々の立場は小児の医療に救急という切り口で関与するという意味で共通しています。そして、そもそも小児の医療とは子どもに向き合い、保護者に寄り添うものでなければならず、子どもは保護者に育てられて大人に成長していくものですが、保護者の子育てにおける最大の不安は子どもの急病とケガであるということを考えると、子育て支援の推進にあたって小児救急医学会が果たすべき役割は極めて大きいと思われます。つまり、本学会は「少子高齢化時代の子育て支援を応援する学会」でありたいと私は考えています。

その上で、一次救急については小児科医会と連携して#8000および家庭看護力の向上を目指し、小児科学会とも連携して小児救急初期対応コースであるJPLSコースの普及に協力したいと思っています。また、1歳以上の死亡数が悪性新生物とほぼ同数の事故死亡を減少させるための子どもの事故防止対策は喫緊の重要課題です。一方、2次、3次救急については小児救急医が過労状態に陥らないような医療体制の確立が必要で、国や自治体など行政と連携して集約化、広域化により重篤小児に対する救急医療体制の整備が不可欠です。そのためには、それぞれの地域における重篤小児の実態調査結果に基づいて優先度を決め、地域ごとに最善の対応策を具体的に考えていくことが重要であると思っています。さらに、少子化の進行に逆行する虐待件数の増加に対しては日本子ども虐待学会との連携を、乳幼児の突然死の検証を含めたchild death reviewの推進には日本SIDS・乳幼児突然死予防学会との連携を、効果的な災害医療の推進には日本小児科学会との連携を進めていきたいと考えています。

従来の大学の医学部教育ではややもすれば軽視されがちであった小児救急医学の学問的体系化も今後の本学会に残された大きな課題であると認識しています。そのためには、小児救急重篤症例登録調査を通じたデータベースの整備、学会発のガイドラインの充実と改訂、教育コース(小児救急教育セミナー、小児脳死判定セミナー、災害医療研修会)の普及と新しい医療技術の導入、学会が監修する「ケースシナリオに学ぶ小児救急のストラテジー」の改訂と小児救急認定医制度の確立などが今後の具体的な活動目標となってくると考えており、そのための委員会活動の活性化を支援していきたいと考えています。

最後に、日本小児救急医学会の使命は医療としての問題点を細かく分析していく緻密な視点と、保護者の気持ちに寄り添って支えるという育児支援の視点を両立させた活動を推進していくことであり、それこそが小児救急医療の魅力であり、また原点であることを常に忘れずに全力を尽くしたいと考えています。どうか、本学会のさらなる発展のために、会員の先生方のこれまで以上のご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

長村敏生