理事長挨拶
理事長あいさつ
2023年 年頭所感

新年明けましておめでとうございます。2020年初めから始まった新型コロナウイルスパンデミックも丸3年が過ぎようとしていますが、飽きることなく医療逼迫を繰り返し、第8波の途中にあたるこの年末年始も診療に忙殺された会員の方も少なくなかったのではないかと推察します。
さらに、ロシアによる大義なきウクライナ侵攻の長期化に伴う沈鬱ムードの中で、2022年の掉尾を席巻したのはカタールのサッカーワールドカップにおける日本代表の驚異的な勝負強さでした。この歴史的快挙には“真の流行語大賞”は「ブラボー」との意見も多いようです。私の場合、以前は当直と日本代表戦が重なった時はここぞというタイミングで救急室から呼ばれ、当直室に戻ってくると知らない間に逆転したり、されたりしているということが度々ありましたが、今回のワールドカップは日本が得点する時もされる時もlive観戦ができました。
少なくともグループステージに限れば、日本ほど5人の交代枠を有効活用した国はありませんでした。中3日の連戦の中、体力的なハンディも乗り越えた選手交代によりドイツ、スペインに逆転勝利した日本代表の優秀なマネージメントには我々も見習う点が多いと感じました。折しも、2024年4月からは罰則付きの時間外労働規制がスタートする訳ですが、医師の働き方改革もチーム医療の質を落とさない形でのターンオーバーが求められるという点では共通するものがあります。そして、質を担保したチーム医療の実現にあたっては、チームの一員が個々の能力を高めることが何よりも重要で、その際にまず求められるのは各自の自己研鑽への取り組みです。働き方改革の目的は単に勤務時間を減らすというものではなく、勤務時間外に各自が自己研鑽に励んだ結果として、勤務時間中の労働効率がより高まることにより、最終的に良質な医療レベルを達成することにあると思われます。ただし、ワールドカップの場合は登録メンバーの増員が前提の話であり、この点は小児救急医療とすべて同じという訳にはいかないという問題も残ります。
一方、逆説的ですが、私が個人的に感銘を受けたのは37歳という高齢であるにもかかわらず、ほぼ交代なしで全7試合を走り続けたクロアチア主将ルカ・モドリッチの奮闘です。「クロアチアの宝石」とも称されるモドリッチの献身的な走りは‘90年代のユーゴ紛争を経て独立した人口410万人の小国クロアチアの歴史が背景にあり、彼は「祖国を代表し、国歌を聴き、ユニフォームを着ることには測り知れない幸せと誇りを感じている。最後まで勝負を諦めない理由は最も困難な時ほど僕たちは一番強くなれるからだ。」と答えています。2022年8月に亡くなられた京セラ創業者の稲盛和夫氏も「よりよい仕事をするためには自分のためではなく、世のため人のために尽くすという思い(利他の心)が必要で、自己犠牲を伴わない成功はない」と説き、20世紀初頭のイギリスの思想家ジェームズ・アレンの「もし成功を願うならば、それ相当の自己犠牲を払わなくてはなりません。大きな成功を願うならば大きな自己犠牲を、この上なく大きな成功を願うならば、この上なく大きな自己犠牲を払わなくてはならないのです。」という言葉を紹介しています。稲盛氏は自身の子ども達の学校行事に一切参加できなかったことに対して長い間申し訳なかったという忸怩たる思いを抱えていたのですが、ジェームズ・アレンの言葉に出会って救われた思いがしたと述懐しています。翻って、私達も小児医療を志した原点を思い起こしてみると、子ども達と保護者の笑顔と安心のためにという思いがあるからこそ小児救急医療に情熱と努力を注いでこれたのは実はそれほど不思議なことではないのかもしれません。